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臼杵に現存する恐怖の地獄絵図

更新日:2019年9月11日

先週のブログでは臼杵の夏休みについて書きました(詳細はコチラ→「過疎地とは思えない、忙しくて楽しい臼杵の夏休み」)。この中で最後にご紹介した地獄絵図に興味を持っていただいた方がいらっしゃったので、今週は臼杵に現存するこの貴重な地獄絵図をご紹介したいと思います。


今回は参考文献として「地獄絵大全(洋泉社)」と「地獄絵を旅する(平凡社)」を使用させていただきました。この両書籍以外にも臼杵市立図書館には地獄絵図関連の本があるので、興味を持った臼杵市民は是非図書館に行ってみてください。


臼杵市の宝、龍原寺の「十王図 地獄・極楽図」

毎年8月最終土曜に行われる「石仏火まつり」。夜のイベントですが、寺社の多い臼杵市では昼間にも「古寺巡り」が行われ、仏教一色の一日になります。今年は市内9か所のお寺を開放し、日ごろは公開していない「お宝」なども見学できるとあって、市外からの観光客も多い1日でした。


今回ご紹介するのは、平清水(ひらそうず)にある龍原寺のお宝。龍原寺は九州で二つしかない木造の三重塔を有する人気のお寺です↓

創建は1600年。三重塔は1858年に完成しています。実はこの塔にはユーモラスな邪鬼がいて軒を支えています。鬼でありながら仏の役に立ちたいと願う希少な部類の邪鬼だそうです。国内でも軒を支える邪鬼をあしらった建築は非常に珍しいということなので、観光客はもちろん、在住者にも是非見ていただきたいスポットの一つです。


龍原寺が所蔵する「十王図 地獄・極楽図」は製作年の詳細は不明ですが、三重塔が竣工した1858年に一度大きな修復をしているとのことなので、それ以前の作であることは確かです。


死後が気になるお年頃

私は今年46歳になるのですが、人生折り返し地点ということもあり、死に方とか死後が気になるお年頃です。

死んでも自由でいたいので、散骨で海にパーッと骨を撒いてもらおう、などと考えていたのですが、

「えーっ、みんなで一緒にお墓に入ろうよ」

と73歳・父Y雄の勧誘にあい、半分は両親と同じお墓に入ることになるのだと思います。仏壇もあるし仏教界のお世話になるのでしょう。その仏教には輪廻転生という言葉があり、人の魂は以下の6つの世界を行き来するらしいのです(六道転生ろくどうてんせい)。お気楽順に並べると以下のようになります;


1)天上界(人間界より楽)

2)人間界(快楽もあるが四苦八苦もある)

3)修羅界(阿修羅となり、必ず負ける戦いに明け暮れる→必ず切腹したり、殺されて終わり、これを延々繰り返す)

4)畜生界(動物、昆虫などになり使役されたり食べられたり、潰されたりする)

5)餓鬼界(いつも腹ペコで喉が渇く。飢えを満たすために自分の体、さらに自分の子どもを食べたり、糞尿を食べたりするが飢えは満たされない)

6)地獄界(切り刻まれ潰され燃やされるといった苦痛が際限なく続く)


(3)あたりから急に辛くなりますが、この転生先は誰が決定するのでしょうか?


早速、年に1回、石仏火まつりの日のみ(しかも13:00-17:00の4時間限定!)に公開されている龍原寺の十王図からその答えを探ってみましょう。


初七日、四十九日、三回忌、全部裁判の日!

死後の世界は「冥界」と呼ばれ、次にどこの世界に生まれ変わるのかを決定するのは、冥界にいる十王。初七日から四十九日までの七日ごとに、人は生前の行いを彼らに吟味され裁かれていくのです。まさに毎週やってくる裁判日!

仕事でアメリカ生活をしていたときに手違いで裁判所に呼ばれ、裁判官を前に胃痛を伴い汗をかきかき、一生懸命弁明したことを思い出しますが、あれが毎週やってくるかと思うとそれだけで地獄の沙汰です。


まずは初七日の図↓

7日間かけて死出の山を越え辿り着くのが、椅子に座っている「秦広王」の裁判所。人間界的にいうと起訴状を確認している段階です。この段階でもかなり厳しい取り調べを受けているようで、亡者は鉄の山の裂け目に投げ込まれ、鬼たちが山の両端を押し、鉄山のサンドイッチにされています。


図の下のほうでは臼と杵で亡者がすり潰され、横の鬼がザルでその血肉をさらうとまた亡者が生き返り、何回も同じことを繰り返される強烈な尋問です。

ちなみに秦広王は不動明王の化身で、頭の上に本来の姿が描かれています。


尋問→書類送検→刑務所行き、これらの流れは四十九日まで

初七日が終わったら三途の川で奪衣婆に着物をはぎ取られ、それで罪の重さを量られます。いい人は橋、普通の人は舟、悪い人は激流の箇所などを通じて三途の川を渡るのです。

その後、二七日(ふたなのか/死後14日目)の裁判官、初江王の裁判所に連行↓

釈迦如来の化身なのに、尋問の厳しさはピカイチです。真実を白状させるために逆さ吊りにして股から真っ二つ!

こんな調子で七日ごとにお裁きの日がやってきて散々な目にあいます。


三七日(みなのか/死後21日目)は宋帝王(文殊菩薩)↓

「三人寄れば文殊の知恵」と言われるだけあり、ここでは極楽に行ける知恵を授けてくれるそうです。

ちなみに図の下にたくさんの子供たちが描かれていますが、彼らは親よりも先に死んでしまった子。親への恩返しの為に賽の河原で石積みをするのですが、夜になると鬼がやってきて滅茶苦茶にその石積みを壊すのです。

「虐待!」と訴えたいくらい腹の立つ鬼ですが、いい子には救いもあり、地蔵菩薩が助けに来てくれるそうです。


四七日(よなのか/死後28日目)は五官王で普賢菩薩の化身↓


そして五七日(いつなのか/死後35日目)があの閻魔王(地蔵菩薩)。いよいよここまでの尋問の結果として六道の行き先が結審します↓

閻魔王の裁判所で必ず登場するのが、真実を映し出す「浄玻璃の鏡」、生首がビーム光線で嘘を暴く「人頭幢(にんずとう)」、罪の重さを量る「業の秤」↓

どんなに嘘がうまい人でもこれら冥界のハイテクグッズをかわすことは不可能ですし悪印象なので、とにかく閻魔様の前に出たらごちゃごちゃ言わずに「スイマセンでしたっ!」と平謝りするのが得策でしょう。


六七日(むなのか/死後42日目)は変成王(弥勒菩薩)。

ここで行く先が決定した六道それぞれで何をされるのか決定します。おべんちゃらでお沙汰を軽くしてもらおうと思っても、見抜かれた二枚舌はこのように抜かれます↓


七七日(なななのか/死後49日目)の泰山王(薬師如来)が次の世界での男女の別を決定。

六七日あたりから少しずつ地獄の風景が絵図に出てきます。この七七日では畜生界に落ちた人たちがどのようになっているのかを見ることができます。逆に王たちの覚え良く天上界に行く人もいるのですが、龍原寺の十王図にはその点が描かれていません。十王図にもいろいろあるのです。


何度か巡ってくる敗者復活戦

死後100日目では修羅界以下の人たちの再審が平等王(観音菩薩)によって行われます。

キリスト教と違い、仏教は何度も敗者復活戦があるのがいい点でもあります。例えばダンテの「神曲」で描かれる死後は三世界;天国、煉獄、地獄です。1回の審判で地獄に落ちたら全く救いようがなくずっとそこで苦しみます。

一方仏教では死んでから1年たっても仏さまは亡者を見捨てず、一周忌に都市王(勢至菩薩)の裁判所でまた再審が行われ、待ってました!の敗者復活戦が行われるのです↓


現代の営業活動に通じる仏教プロモーション

昔は地獄絵図や極楽図を用いて、仏教への信仰心やモラルを高めるためにお寺で絵解きを行っていたそうです。そして驚くのは各法要で言われるであろうこの謳い文句;

「故人の縁者が手厚く追善供養を行えば、地獄で苦しむ故人の功徳となる」

一つの区切りとなる三周忌で赴く五道転輪王(阿弥陀如来)の裁判所でいよいよ変更不可の行先き決定。現世での法要がとても重要な最終チャンス↓

故人が信心を取り戻す、又は悔い改めることによって行く先も好転するチャンスがありますが、現世に残る縁者の信仰心と追善供養もかなり重要、というわけです。


うがった見方だと我ながら思うのですが、現代でいうなら凄いセールストークです。

地獄絵図というのは13世紀から始まった宗教プロモーショングッズで、15世紀から「熊野比丘尼(くまのびくに)」(女性宗教者)が全国各地にこの絵図をもって解説をしてまわり信仰心を高めた、と言われているのですから、現代で例えるなら全国行脚の営業活動。ヤクルトレディも真っ青なのです。


現世の人は間違いなく地獄行き

龍原寺の地獄絵図は江戸時代の作で、死後の世界を分かりやすく伝えるために描かれたものだとのこと。国宝級の十王図と比べるとキツイ描写は少ないので、臼杵の子供にも耐えうる絵だったと思われます。


それにしても平安時代にある程度定義されたこの六道転生。罪状が多すぎる上に現代人に照らし合わせると十中八九地獄行きです。例えば飲酒する人は全員アウトです。蚊を殺してもアウト。納得いかないのは、子どもを産まなかったら(又は産めなくても)アウト。こんなこと言ったら「マタハラ」だとお寺さんは訴えられます。食事中に手を舐めてもアウトなので、ウチの姪や甥は1歳にして地獄行き決定ということになります。腹が立ちます。


かと思えば「そんなことするか(できるか)!」というような罪もあります。

「象に酒を飲ませて人を殺させたら地獄行き」

どこの国の話でしょうか?


是非十王にはいま一度罪状をご確認いただき、「虐待」「煽り運転」「ゴミ屋敷」など、現代に合わせた罪状を作っていただきたく思っています。


子どもの時から倫理観を育てるのは大切なことなので、来年は小学生の姪っ子や甥っ子と一緒に龍原寺に出かけようと思っています。皆さんも「古寺巡り」にご参加いただき、古い物から皆さんにとっての楽しい発見をしてくださいね。


【龍原寺の基本情報】

住所:大分県臼杵市福良平清水134 (地図

電話:0972-62-2717

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